「暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出」
読書感想文その2
「暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出」
2012年、新潮社発行
彩瀬まる 著
少しまじめな内容のこの本を読むきっかけとなったのは大学の課題図書だったからだ。東日本大震災が起こったのは「2011年3月11日」であり、8年前の話となる。もう一度、少し大人になった今東日本大震災の内容に触れると、当時ニュースを見ることで感じていた地震の緊迫感とは違った印象を受けることになった。
それはたぶん、人の心の変化、感情を細かに予測、感じることができるようになったからだろう。
だけどそう思えたのは、この本が著者本人が福島県で被災した経験を綴ったルポルタージュだからだとも考えられる。被災した瞬間。まだアドレナリンが出ているからなのか、実感が湧いていないのか、直後では意外にものんきなことを言える心理。町の変化。津波が来た瞬間。夜の街から明かりが消えていたこと。助け合いの精神や、家族の心配。様々な問題に直面し八方ふさがりになっていく感覚、福島第一原子力発電所の爆発に伴う、放射線に対する不安。が日を追って語られていく。
だから私は著者自身、そして町の人々など、すべての登場人物の感情に焦点を当てて読み進めるかたちとなったのである。
そうしたら、
感謝の念と、良心と、悪とも善とも言えない、仕方のない自己中心的な考えが心で喧嘩を始めて、そしてストレスとなって息が詰まっていく感覚が、読みを得たときに後味として残っていた。
悩んだ。もし被災したとしたら、自分にも、相手にも極度のストレスがかかる状況におかれたら、いったいどんな言葉を選び、どんな態度で、人の気持ちに気遣いながら関わっていけばよいのだろう。
他人の善意に苛立ちを覚えるかもしれない。反対に、自分の善意が裏返しに感じられるかもしれない。答えはわからないけど、疑いの心を持つことで少しでも正しい選択ができたらとてもうれしい。
人の心について、疑いをもって考えるようになる作品だった。
「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション 人生・仕事・世界を変える7つの法則」
読書感想文その1
「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション 人生・仕事・世界を変える7つの法則」
2011年、日経BP社発行
カーマイン・ガロ=著
井口 耕二=翻訳
外村 仁=解説
この本はビジネス書だろうか。エンターテインメントに感じた。スティーブ・ジョブズがアップルを創設し、成功させるに至ったスティーブ・ジョブズの思考、また彼の思考を真似した、または近い思考を持ったアントレプレナー(起業家)たちのサクセスストーリーが綴られている。またスティーブ・ジョブズが独創的な、他人とは違う思考を持つこととなった生い立ちも綴られている。
成功するためにコンサルタントを雇ったり、市場調査をしたり、フォーカスグループを行ったりするのが一般的だが、そんなものは一切無視のサクセスストーリーを読むのはシンプルに面白く、他人と違う考えを持つことや、アイデンティティが肯定されているようで、読んでいて気持ちがよかった。
それに、
意外。意外。意外の連続。自分の常識がひっくり返されていくのだ。
ジョブズがアップルをクビになり、11年間もアップルを追い出されていたなんて知らなかった。
ジョブズがディズニーの筆頭株主で、ピクサーの創設者なんて知らなかった。
インドを旅していたことも。リンゴ農園にいたことも。
突飛な考え方をするには、突飛な経験が関わってくるらしい。
上記のようなことを知ることで、知的好奇心が満たされていく感覚が癖になり夢中になって読み進めてしまったのだけど、これは実験系ユーチューバー「はじめしゃちょー」の動画を見たときに感じる好奇心の充足に近いものがあると思った。
スライムで風呂作ってみた I make Slime Bathtub !
スライム風呂なんてずるい。気になって見ちゃう。
ささやかな、「へぇ~!!」の連続。見たことのないものに好奇心で強く惹かれる。
「携帯電話からボタンをなくして、画面だけにしてみた」
こんなことが書かれているのだから気になって読み進めてしまう。本にまとめられても私の好奇心を引き付けたイノベーションの数々は固定概念を壊すものばかりである。
アップル社が掲げるプロモーションのキャッチコピーであり、この本にもたびたび登場する
「シンク・ディファレント」
という言葉。固定概念をなくし発想を変えよう。といったような意味があるのだけど、まさにこの本を読むことで自動的に、頭の中でシンク・ディファレントが起こっていくようであった。
固定概念を持たないこと。そして、人の心を魅了することがイノベーションのためにどれだけ重要なことか、知ることができたいい本だった。
- 作者: カーマイン・ガロ,外村仁 解説,井口耕二
- 出版社/メーカー: 日経BP
- 発売日: 2011/06/30
- メディア: 単行本
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